カラス星

池上本門寺の、ほうきを持った小坊主さんの像をご存知でしょうか?この小坊主さんはとても物覚えが悪く、和尚様に「頭だけで覚えようとするんじゃない。何事も体を使って覚えなさい」と言われたそうです。
しかしその言葉に「???」となった小坊主さんを見て、和尚様はほうきを持たせ「これで毎日隅々まで綺麗に掃除をしなさい」と言ったそうです。そして小坊主さんはその言いつけを守り、一生懸命掃除をしました。一生懸命になればなるほど、いろんな事に気付き、それが全て自分の身になっていきました。だから、どんどんいろんな事も覚えられるようになったという事です。

こうして努力を重ねた小坊主さんは〝出来ないと思い込んでいる人〟や〝自信の無い人〟の気持ちがよく分かりました。だって、自分もそうだったのですから。だからこそ、そんな人達を励まし、自信を持つ手助けをしてあげられたのです。

こうしていつも人の心に寄り添い、親身になってくれる小坊主さんは、後に、みんなから愛され尊敬される立派なお坊さんになりました。

今でもそんな小坊主さんを慕って、この像に集まる者達は後を絶ちません。

今夜もまたやって来ました。嫌われ者と〝思い込んでいる〟カラスが・・・
どうしてこんなに嫌われてしまうのか?どうしたらみんなに好かれるようになれるのか?毎日毎日悩みに悩んだ結果、自分は居ない方がいいと思うようになりました。
そんなカラスにも、小坊主さんの像は優しく接してくれました。それが嬉しくてカラスは、家々の明かりも消え、夜空の星が一層輝きを増す頃、人目を避け、小坊主さんの像に会いに来るのです。

「小坊主様、今夜のお星様も綺麗ですね。あんなに綺麗なお星様には、どうしたらなれるのでしょうかね?」カラスはそう言いながら、いつものように小坊主さんの像にすり寄り、夜空の星に熱い眼差しを投げ掛けました。

「お星様はお星様、あなたはあなた。あなただって十分素晴らしい存在なのですよ」小坊主さんの像もそう言いながら、いつものようにカラスに優しい眼差しを投げ掛けました。

「そう言ってくれるのは、小坊主様だけです。僕は真っ黒で恐ろしい闇みたいだから、みんなに嫌われてしまうのでしょう。僕もお星様のように、キラキラと美しく生まれていたなら、みんなに愛されたのでしょうね・・・」
カラスの口から、いつものこのセリフがこぼれ落ちると、大きな瞳から、真珠のような涙も一緒にこぼれ落ちるのです。

だから今日もまた、小坊主さんの像はカラスにこう声を掛けるのです。
「どうぞ自分を嫌いにならないで下さい。私の大好きなあなたが、あなた自身を嫌いだなんて、私は悲しいです。それに、あなたは決して嫌われ者なんかじゃありませんよ。嫌っているのは、あたな自身だけですよ」

「僕を好きだと言ってくれてありがとう。小坊主様が好きでいてくれれば、僕はそれで十分です」そう言ってカラスは、小坊主さんの像の足元で眠りに付きました。

そんなカラスの寝顔を、風も優しく撫でて通り過ぎて行きます。全てを見ていた夜空のお星様も、優しい光のプレゼント。毎日毎日プレゼント。例え誰一人、夜空を見上げていなくても、光のプレゼントは、届けられるのです。

そんなある新月の夜の事、いつもなら太陽が沈み柔らかな闇のベールに包まれる頃、何故かその日は普段よりも深い深い闇のベールが、当たり一面を不気味に覆い始めました。

いつも池上本門寺にある、一番高い木の上から見下ろし、辺りの様子を伺っているカラスも、この異変に気付き顔を上げました。するとお星様がいません。厚い雲もいないのに、どうしてお星様はいないのでしょうか?

毎日お星様を楽しみにしているお寺のふもとの子供達も、心配そうに夜空を見上げています。「お星様は何処へ消えてしまったの?」お母さんに聞いても、お父さんに聞いても分りません。

不安になった人々が、池上本門寺へ集まってきました。そして、小坊主さんの像の周りで肩を寄せ合い心配そうに夜空を見上げています。
「お星様は病気にでもなったんじゃないか?」
「悪魔に連れ去られたのかもしれない!」
「私達・・・お星様に何か悪い事でもしたかね?」
いろんな憶測が飛び交いました。

しかし、闇のベールは更に厚く、更に広く辺りを包み込んでいきました。そして、風の音までも包み込み、『グォー、グォー』と、まるで怪物の声のように変えてしまったのです。
「お母さん、なんだか怖いよ」とうとう子供達が泣き出してしまいました。

一体何が起きているのか?心配になった小坊主さんの像は、夜空に尋ねました。
「お星様は一体どうしたの?」
すると夜空はこう言いました。
「実はここには居るのです。でも、大勢の人達へ希望の光をプレゼントし続ける事に疲れ果て、輝くのを止めてしまったのです。それにいくらプレゼントをしても、自分達は何も貰えないのが淋しいらしく・・・」

「お星様、よく見て下さい。ここにいる者達は、みんなお星様を心配して集まっているのですよ。それ程までに、お星様を大切に思っているのですよ。お星様が光をプレゼントしてくれている事にちゃんと感謝をしている証拠です。どうかみんなに感謝されているという事を分って下さい」
小坊主の像は、見えないお星様に向かって言いました。

すると、夜空は更にこう続けました。
「実は、それだけじゃないのです。僕への不満もあるのです。僕は、何もしないでただここにいるだけです。お星様がみんなへ光をプレゼントしてくれるお陰で、僕も夜空としてみんなに愛されています。僕は何もしていないのに・・・それが、お星様には不満なのです。だから、役立たずの僕が全部悪いのです」

木の上でずっと聞いていたカラスは、堪らず夜空へ向かって飛び立ちました。必死に飛びました。そして夜空の側へ寄り添ってこう言いました。
「あなたはあなたで十分素晴らしい存在なのですよ。それに、夜空が無ければ、お星様だって輝けないじゃないですか。夜空があるから、お星様は一層美しく輝けるのですよ」
この言葉を聴いていた小坊主さんの像は、カラスの気持ちが嬉しくてなりませんでした。

「あっ、とても綺麗なお星様が二つ光っているよ」子供達が夜空を見上げて言いました。
「まぁ、今日のお星様は、まんまるおめめみたいに澄んでいて、とても可愛らしいわね」お母さんもそう言ってニコニコ笑顔で夜空を見上げました。

みんなホッとして、二つのまんまるお星様を見詰めています。お陰で辺りを支配していた闇のベールは、まんまるお星様の優しい光と、人々の優しい眼差しによって破れ、いつもの優しい夜空へと変り、風もいつもの柔らかなそよ風に戻りました。

「みんなカラス君のおめめをお星様だと思っているんだね」元気を取り戻した夜空は、さっきよりも高い声で元気に言いました。

「カラス星、カラス星、今日のお星様は格別に美しい。あなたの心と同じですね」小坊主さんの像が、目じりを下げて嬉しそうに声を上げました。

それを見ていたお星様は、なんだか自分のしている事が恥ずかしくなり、また光を放ち始めました。

「みんなそれぞれ、大切な存在なのですよ」夜空のもっともっと上の方から、優しい声が聞こえました。

ABOUTこの記事をかいた人

みー

北海道出身。進学の為上京。卒業後にボイストレーニング、ライブ活動を開始。大手レコード会社2社のオーディションに合格し、ライブ活動の他、楽曲製作にも力を注ぐ。 その後、アーティストとしての活動から作家としての活動へ移行し、有名アーティスト等の作詞コンペに参加。また、小説に興味を持ち執筆を始める。その他、Webライターもこなす。 作詞、作曲、打込み、Vo、全て自身でこなした作品をYouTubeにアップしてありますので、宜しければお聴き下さい。※ウェブサイトクリックで確認できます。